ひずみ度のふるまいを見ることによって、結び目図式だけでなく結び目射影図の特徴も見ることができる。例えば、ひずみ度が0の結び目図式を同じ基点から逆向きにたどったとき、ひずみ度が大きくなるものとそうでもないものがあり、それは結び目図式の形そのもの、つまり射影図からきている性質ともいえる。
結び目射影図において、全ての向き付けられた交代図式における、全ての基点におけるひずみ度の最小値を、その結び目射影図の交代ひずみ度と呼ぶ。交代図式は交差の上下を繰り返すことから、ひずみ度を小さくすることも大きくすることも期待できなさそうだが、その値も、交点数の半分といった一定の値には落ち着かず射影図の形によって様々である。たとえば8交点の既約な結び目射影図でも交代ひずみ度が2のものもある。今のところ交代ひずみ度が2の結び目射影図まで決定できているが、感覚的には、交代ひずみ度が小さい結び目射影図は、たどったときに同じ場所に戻ってくるのが早い結び目射影図といえる。
本講演では結び目射影図の独立領域集合というものを導入し、交代ひずみ度を上下から評価する不等式を与える。この不等式のポイントは、結び目射影図をたどることなく、つながり具合だけを見てひずみ度が評価できることである。
本講演は、大屋敦士氏との共同研究に基づく。